満月池と涙形のレンズのおはなし




その森の入口は、誰のすぐそばにもあるのです。

ただ、気が付くかどうかは人それぞれなのですが。





くらいくらい森の奥、ふかいふかい森の奥。

思い出したように森の中を冷たい風がふくようになったある日、ソラキンギョが家のある満月池に帰ってくると珍しいお客が来ていました。

満月池の上の木の上で、船をこいでいるのは、いつもは夜中にしか起きていないヨタカです。

「あれ。まだ昼間なのにめずらしいね」

「うん。ねむい」

あくびをしながら、いかにも眠そうにヨタカが答えました。

ソラキンギョが前にヨタカを見かけたのは、季節が二度かわる前だったでしょうか。

「聞きたいことがあって、来たんだけれど」

「君が? 何か教えてあげられる事なんてあるかなぁ」

ひどく地味で、木の枝に留まっていてもまるで誰も気がつかないのですが、ヨタカもフクロウと同じぐらい、森のことや森の外のことを知っているのです。

「満月池の事を聞くなら君だろう?」

やっぱりあくびをしながら、ヨタカがいいました。

たしかに、それならソラキンギョが一番くわしいにちがいありません。

「満月池のこと? 何でも聞いてよ。解ることならなんでもおしえてあげる」

難しいことを聞かれるのではないとわかったソラキンギョは、ほっとして尾びれをふわふわとゆらします。

「ここのところ、満月池に、大きなホシクズが落ちてこなかったかい?」

「大きなホシクズ??」

「いつもよりも大きくて、キラキラしているやつ」

ヨタカに言われて、ソラキンギョは首をかしげました。

満月池には、たまーに、すこし大きなホシクズが落ちてくる事はあるのです。でも、キラキラしているホシクズなんて、ソラキンギョは見たことがありません。

ホシクズをそっと地面に植えると、とても綺麗な光る花が咲くのですが、ホシクズはほんのり光ることはあっても、キラキラ光っている訳ではないのです。

「それって…ホシクズなの?」

「どうだろうね」

ソラキンギョが思わず聞き返すと、ヨタカは眠そうなまま、首をかしげました。

「少し前の夜中にいつものホシクズよりも大きくて、キラキラ光るものが満月池のほうに落ちたのを見たんだよ。地面は探したけれど見つからなかったから」

「満月池に落ちたのかもしれないんだね」

「そう」

ヨタカに言われてソラキンギョも首をかしげました。

そんなに目立つキラキラしたものなら、ソラキンギョが気がつかないはずが無いのです。

でも、普段はいかない、満月池のずっとずっと奥のほうならわかりません。


満月池のずっと奥の方には、ゆらゆらと銀色の光が水と一緒にわき出している所があります。まわりには、いつも水中で花を咲かせているのギンユキモがたくさん揺らめいています。

水と一緒にわき出している銀色の光は、いつの間にか透明になってしまうのですが、あんまりに綺麗なので、ソラキンギョは近づかないのです。


―――だって、揺らめく銀色の光とギンユキモを見ていると、帰ってこれなくなりそうなぐらいに綺麗なのです。


「うぅん…奥の方かなぁ」

ソラキンギョがくるくると回りながら、満月池の思いあたる場所をいくつか考えていると、ふと大事なことをヨタカに聞いていないことに気が付きました。

「でも、そのキラキラしたもの、見つけたらどうするの?」

「レンズを作れるかな、と思って」

「レンズ?」

「うん。昔に失くした小さな涙型のレンズだよ」

ぼんやりと眠そうだったヨタカが、ソラキンギョを見てすこしだけ笑いました。

「ずっとずっと昔に失くしてしまったんだ」

「ふぅん……」

ずっと眠そうなヨタカでしたが、その時の笑い顔が、ソラキンギョにはちょっと悲しそうにみえたのです。

「じゃぁ、見つけたら教えてあげるよ」

「ホシクズ集めの最中にでも、見かけたらよろしくたのむよ」

再び大きなあくびをして、ヨタカは翼をひろげます。いつもはぐっすり眠っている時間なのですから、無理もありません。

「まかせておいて」

思わず胸をはったソラキンギョにすこしヨタカはおどろいたようでした。

「きっとみつかるよ」

返事の代わりに、ヨタカは今度はすこし楽しそうにソラキンギョにむかって笑います。

それからさぁっと音も無く飛び上がるとそのまま木々の向こうへと消えていきました。





それからしばらくして、ソラキンギョは満月池の底で虹色の小さな結晶片を見つけるのですが、それはまた別のおはなし。