リスのお母さんとソラキンギョの花畑のお話。




その森の入口は、誰のすぐそばにもあるのです。

ただ、気が付くかどうかは人それぞれなのですが。


 

くらいくらい森の奥、ふかいふかい森の奥。

大きな木々の隙間から、ちらちらとホシクズがこぼれ落ちてくると、そろそろアウロラミカンの花がふんわりと香り始める季節になるのです。

この時期になると、リスのお母さんは大忙しです。

まだまだ甘えん坊で、やんちゃばかりのちびっこたちを家から遊びに出し、夏へ向けての準備を始めなければなりません。

まず夏用のあたらしいベットをしつらえなければならないし、虫避けのハッコウカヤの葉を集めて日陰干しにし始めたら、他にもやることはたくさんあるのにあっという間に夏になってしまいます。

「大変そうだねぇ」

ふわふわとソラキンギョが頼まれ物をもってリスのお母さんの元を訪ねたのはそんな時期です。

「あらあら。いらっしゃい」

「頼まれていた物を持って来たよ」

ふわふわと長い尾びれを揺らしながらソラキンギョが持って来た小さな瓶をリスのお母さんへ渡しました。

瓶の中には色とりどりの粒が詰まっています。

「こんなに? 夏が早く来そうだから助かるわ」

「冬が早いよりはいいよ。前の冬は長かったからね」

ソラキンギョは思いだすのも嫌だと言わんばかりにぶるりとふるえて見せます。

「ちびっこ達はおでかけかい?」

リスのお母さんの家がずいぶん静かなのでソラキンギョはちらりと家の中をのぞきました。

古いベットを片づけていたリスのお母さんは子供たちの事を思ってつい小さく笑ってしまいます。

「秋にとっておきのおいしいテトラドングリを隠しておいた場所へ行くのですって。まったくもう」

「それは、さぞかしがっかりするだろうね」

ソラキンギョが尾びれをふるわせてくすくす笑いました。

ちびっこたちが、芽吹いたテトラドングリをどんな顔で持って帰ってくるのか、すこしかわいそうな気もします。

「ドングリはともかくだよ。夏が早くくるのなら、種も早くまかないといけないんじゃないの?」

ソラキンギョが渡したばかりの小瓶を見てリスのお母さんに言いました。

「そうねぇ。おばばも腰が痛いと言っていたから、キツネビソウを早く届けてあげたいし」

「満月池にはまだホシクズがたくさん沈んでいるよ。春分からこっち豊作なんだ」

池の底にたまった小さな粒のことを、ソラキンギョは嬉しそうに伝えます。

「まぁ。それならさっそくたくさん植えなくちゃいけないわね」

くらいくらい森の奥には、背の高い木がたくさんあります。だから「そら」は見えません。

けれども、何故かソラキンギョの住んでいる小さな池には『満月』なんて名前がついています。

ソラキンギョは「まんげつ」がどんなものなのか見たことがありませんが、きっと森の「そと」や木の上を飛べるフクロウか、ヨタカが名前を付けたのだと思っています。

そんな満月池にはたまに木の上から落ちてくるホシクズがそのまま深い池の底にたまるのです。

地面に落ちるとほとんどがぱっとはじけてしまうホシクズが、どうして満月池に落ちるとはじけてしまわないのか、誰も知りません。

はじけなかったホシクズをそっと地面に植えると、それはそれは綺麗な花がたくさん咲くのです。その事をソラキンギョに教えてくれたのがリスのお母さんでした。

それまでは、池の底に沈んだ小さなホシクズを集めようなんて、ソラキンギョは思いもしなかったのですから。


おばばの腰痛に良く効く白い花や、良い匂いのする桃色の花や、そよぐ時にきらきらと素敵な音をならす碧い花や、いろいろな花が咲くのですが、ホシクズから咲く花はみんなやさしく光るのです。

今では、そんな綺麗な花の咲く花畑がソラキンギョは大好きなのでした。

「ヤコウレンゲが咲くまでに、もう一回もってくるよ」

満開の花畑を思いながらソラキンギョはふわりと回ってリスのお母さんと約束しました。

「あらあら。それは大きな花畑になりそう。うちの子達もきっとよろこぶわ」

楽しそうに尾びれを揺らしながら宙を泳ぐソラキンギョの様子にリスのお母さんもやさしく笑います。

「きっとすごくすてきな花畑ができるよ。満開になったらみんなを呼ばないとだねぇ」



夏が来る前、満開になった美しい花畑は小さな小さな奇跡を起こすのですが、それはまた別のおはなし。